「みなさんの手の指で、いちばん長い指は何指ですか?」
右手をかざしてこう問いかけると、
「中指!」
という声が生徒さんたちから返ってきます。予想通りです。こちらはつい先頃行いました今年の高校入試セミナーの休憩時での一幕です。ところで、この解答は正解ではありません。
中指の長さはどこからどこまでかといえば、爪の先から指の関節の3つ目のところまでです。隣の人差し指や薬指より長い方が大半でしょう。ところが爪の先から指の関節を1・2・3と数えると中指より長くなる指があります。そう、親指です。親指の3つ目の関節は手首の付け根に存在しています。実際に動かしてみるとよく分かります。
それならば、一番長い親指が一番力持ちで働き者のはずです。この一番の働き者と二番手の中指にタッグを組ませたら、相当な働きをしてくれそうです。ところが、最近の子どもさんたちはこの最強タッグのパワーを、あることであまり活用していないことに気づきました。それが「えんぴつの持ち方」です。実に様々な持ち方が存在しているのです。
えんぴつを握る時に必要な力は親指と中指に分担させて、グラグラしないように人差し指を2本の指の間に添えてやると、力まなくてもいいえんぴつの持ち方になります。結論とすれば、えんぴつを持つ指は3本で十分ということになりますが、そこにもしも薬指を加えてあげるとすれば過密スペースとなり、どれかの指が重なり合って場所を確保しているか、過剰に密着して指どうしでおしくらまんじゅうをしている状態となるはずです。
親指・中指のパワーが十分伝わっていなければ、他の指がカバーに入ろうと無理に力を入れることになります。ひょっとしたらこのことと、「首が痛い」「肩が痛い」「腰が痛い」…と訴える子どもさんたちを多く見かけることとは無関係ではないのかもしれない、とも思っています。そこで、望ましいえんぴつの持ち方を簡単に身につけられる方法を一つ紹介しました。それは、えんぴつを洗濯バサミではさんで持つだけです。V字のところに人差し指を添えて持てば、自然ときれいな持ち方になるのです。
休憩時のイベントとしてはかなり踏み込んだものとなりましたが、実用性もあり概ね好評のようでした。これから「持ち方」にも意識を向ける人が増えてくれることを望みますが、やはりそれは平坦な道ではなさそうです。たとえ洗濯バサミでえんぴつをきれいに持てても、赤えんぴつで丸をする時にはもう元の持ち方です。一度身に付いたものはそう簡単には変えられないようです。それに無理矢理矯正するというもの気の毒なことです。本末転倒とならぬよう智恵を出していこうと思います。
ところで「えんぴつ= ?? 」と置き換えるものはあるのでしょうか?当日生徒さんや保護者の方にお話ししている時にはそんなものは考えてもいませんでした。でも、こうして文章にして整理してみると、すでに何かに置き換えられているような気がしてきました。それは高校入試のことだけでもないし、子どもの世界のことだけでもないもののようです。何だかかえって思わぬ気づきを与えていただいたような気がしています。
(07.7.27)
<追記>厳密に言えば、親指は2つ目の関節のあるところまでで、他の指が3つ目の関節のあるところまでとされるのと構造が違います。この3つ目の関節までの骨を指節骨と呼ぶようですが、指節骨を2本しか持たない親指は、そこからつながる手のひらの中の中手骨の助けを借りて「親指的」な役割を強化しています。説明不十分な点は、何とぞご容赦下さい。