その学校では、学級委員長になると「クラス運営費」として毎月5千円が支給されます。クラス運営のためなら何に使っても構いません。それに、足りないと思ったら2千円でも3千円でも追加してもらうことも簡単にできます。もちろん領収書もいりませんから、何に使ったか、後で聞かれることもありません。だから委員長になると、運営費を何に使おうか考えることが楽しみの一つにもなります。
例えば、「クラスメイトとの親睦を図る」という名目があれば、カラオケに行くことも可能です。ただし全員では行けませんから、限られた人数でこっそりといきます。同様に「親密なコミュニケーションを図る」ためならば、ケータイの通話料をそこから支払うこともできます。名目があれば何に使っても不正にはならないのですが、クラスメイトからはだんだんと不信感が募ってきます。
昨年のことです。次の学級委員長選挙まであとわずかという時期になってきました。そのときの委員長はもう一度立候補して再選を狙っていますが、クラスの中での支持が今ひとつです。そんな折、立候補を表明した人がもう1人現れました。その候補者はクラスでの期待感が広がり始めており、「次期学級委員長」との呼び声も聞こえてきました。現職の委員長は焦ってきました。
何とか自分が再選できるために手を打たなければ、と思いついたのがあのクラス運営費です。委員長はクラスの中で影響力を持っている5人の生徒に、1人千円ずつ手渡して、対立候補者の評判を下げるよう依頼したのでした。そうして千円を受け取った5人の生徒たちは、対立候補者の悪口を言いふらしたり、事実を確認しないまま相手に不利となる風評を流していきました。
でも、その甲斐も空しく学級委員長選挙で選ばれたのは対立候補者の方でした。落選の身となった前委員長は未練を残しながら、その地位を去っていきました。ただ、クラス運営費の繰越金2万5千円はクラスに残すことなく、全額持ち出して退任したのでした。そのお金は、先の5人の生徒たちに少しずつ手渡し、引き続き新委員長のあら探しをする報酬として使われていったみたいです。
次第に持ち出した繰越金が底をついてきました。もう手渡す資金がありません。これまで依頼を受けてきた5人の生徒たちも、「もう、こんなことしたくない」という気分になってきていました。ところが、実際にはそうなりません。彼らは引き続きあら探しをして、風評を流し続けています。どうやら、前委員長が「これまで通りにやらないと、お前たちがこれまでどれだけの金額を受け取ってきたか、全部ばらすぞ」と言ったみたいです。
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これはもちろん架空の出来事であって、あり得ないお話です。こんなことが実際に学校で起こったら大問題ですね。書いていても不快感が充満して、あまり気持ちのいいものではありません。大人の社会でも、むろんこのようなことは「あり得ないお話」であるはずです(どこかで聞いたような気もしないでもないのですが…)。このような事例に目を向けなくてもいいような社会であることを願いながら、今日も元気な生徒たちと向き合っています。
(10.5.13)