(前のページからの続きです)
「読み」の正答率は1年字の90.3%から6年字の85.4%と、およそ5%低下しています。それに対して「書き」の正答率は1年字の91.0%から6年字になると57.8%と、33%以上も低下をしてしまいます。明らかに「読み」よりも「書き」の定着の方がよくないことが分かります。その理由はいろいろ考えられます。よく採り上げられるのが次のような理由です。
@パソコンや携帯電話が広く普及して、漢字を書かなくても日常生活が送れるようなライフスタイルに変化してきた。
A加えて、若者の間で絵文字などの特殊な文字を用いた独自のコミュニケーションが成り立つようになってきた。
これは全くのその通りで、大人の漢字力の低下の理由としても当てはまることです。しかし、これをもって小中学生の「書き」の正答率低下の理由とするのにはやや無理があるように思われます。それは前ページのグラフを見ると、低下の傾向はすでに低学年のうちからはじまっていることが分かるからです。
「書き」の正答率は1年字から2年字の間で5.9%低下します。これだけで「読み」の6年分の低下の割合を上回ってしまいます。さらに2年字から3年字の間では16.1%低下と急降下します。小学校低学年ですから、パソコンや携帯電話の影響を受けた児童が多いとは考えにくいことです。それでも小学校高学年にならないうちに漢字が書けなくなってしまうという実状が見られます。
上の「書き」のデータを見ると、1年字の一番多い間違いは「犬」という漢字の点の位置の間違いです。ちょっとの違いのように思えますが、「犬」という漢字が左を向いて前足を上げた犬の形を表していることを知っていれば、耳にあたる点はやはり頭の上にないとおかしい、ということが分かってきます。同じように2年字で誤答の多い「半」という漢字は、財産を表す牛の顔を左右に分けたことを意味していますから、縦に上から下までスパッと分けないといけません。
このように、漢字はすべて意味のあるところから出来上がっている(表意文字といいます)わけですが、漢字の成り立ちの理解と「書き」の正答率の低下は無関係ではないように思われます。仮にドリル等の反復学習に徹して「形」として漢字を覚えていくことを学習スタイルの中心にしていれば、全く違う意味の漢字をあてる間違いも起こりやすくなるでしょうし、「形」が出来上がればいいわけですから「筆順」の間違いも大きな問題として意識しなくなっているのかもしれません。
漢字をめぐる現状を掘り下げていけば、様々な深い課題が含まれているように思われます。